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2008年の春、マンションの階段に落っこちていたスズメのヒナを家族が拾ってきました。
両手にすっぽり隠して、「これなんだ」って。
虫?(前にタマムシを拾ってきたことがあった)それともカエルか。
そのくらいしか思いつかなかったのですが、手の中から出てきたのはちいさなスズメでした。
か、かわいいけど、どうしたらいいものか。
飛ぶ様子もなく、ちいさくまるくなって、おとなしい。
親鳥は見当たらず、巣らしきものも近くになかったらしい。
生まれてどのくらいたつのだろう。わたしたちは鳥に関してまったく無知だった。
とりあえず、元気になるまで保護することにしました。


なんとなく、さかなクンが被っている帽子のハコフグに似ているので、「フグ」と呼ぶことにしました。



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5月1日。これが拾ってきた直後の様子。羽は短く、身体はまるっこいです。
寝る時はフタつきのカゴにいれていましたが、2〜3日すると脱走するように。



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5月2日。はじめは餌をあげようとしても口を真一文字にして食べてくれませんでしたが、
クチバシ横のパッキンから先を平らにした割り箸でこじ開け無理やり食べさせると
食べてくれるようになりました。




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5月2日。この見知らぬ世界と見知らぬおっきなヒトたちにまだ慣れない様子。



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5月3日。眠る。羽毛がふわあっとはリラックスの証拠らしい。
手の上はあたたかいので安心するのでしょうか。



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5月4日。 食べ盛りなのであげればあげるだけ食べちゃいそうな勢いでしたが、
羽が生えていない首のところのそ嚢(そのう)がぱんぱんに膨れたらやめるようにして、
またへこんだらあげるようにしていました。

スズメのカワイイ仕草はいっぱいありますが
やはり一番はなんといっても餌をもらう時にチイチイ鳴きながら両翼をプルプル震えさせる姿です。
それはもう、こちらが身悶えするくらいのカワイさ。
これは巣立ち後の幼いヒナに見られる特徴で、
その後成長するとともにプルプル現象はなくなってしまいます。



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最初の頃は、米粒などをあげていました。



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不機嫌そうな顔に見えます。



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そしてこの頃はこうしておとなしく膝の上に乗ったりしていました。



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頭なで。
鳥は未知の生きものだったので、毎日が驚きの連続でした。



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テレビの裏のほうとかにもよく隠れこんだ。



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5月5日。ウニの茂みに隠れる。



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5月7日。はじめてソファの上で遊ぶ。置物みたい。



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5月10日。手の上で平べったくなる。



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尾羽がはらはらと抜けてゆく。栄養が足りないのかもしれない。



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5月13日。ヒゲと‥



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ボイン。



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ビューン。



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5月15日。誰が教えたわけでもないのに、濡れた鉢皿の上で水浴びの真似事をはじめる。
水をいっぱいいれると、何故かやらなくなる。



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5月16日。おしり。



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5月19日。ソファの布の感じが好きみたいで、水浴びの時のように羽をバタバタさせ移動する。



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5月2日と5月21日の横顔比較。こんなに逞しく成長していました。
目もクチバシも大きくなって、すっかり大人顔!
クチバシ横の黄色いパッキン(馬蹄斑・ばていはん)はなくなり、
頬の黒いおてもやんもうっすら見えはじめています。
ヒナの時期だけに見られるパッキンは、餌をもらう時大きな口があくよう付いていると
なにかで読んだ気がするのですが‥フグが来た頃の写真を見返すと(5月4日写真)、
確かにものすごい大口を開けています。



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鳥は飛ぶためにいつも身体を軽くしておかなくてはいけないので、食べたものはすぐに排泄します。
(食いだめできないので、常に食べ、常に排泄し続ける)
当然、家中所構わずフンをする。
ソファの上に新聞を敷いても、フグは新聞のカサカサがおまり気に入らないようで、
いつの間にかスキマの布部分に入り込んでいたりする。



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5月24日。毛づくろいの仕草もいっちょ前になってきた。



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5月24日。隣の部屋で音がしたので背伸びして見ている。
すごい胸筋です。



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6月1日。はじめの頃のように、おとなしく手の上で寝たり、膝に乗ってきたりはしなくなったけれど、
毎日抱っこして頭を撫でたりして頭にチューをしていた。
いつの頃からか、フグがいなくなったらと考えるだけで涙するように‥



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ソファの溝がすき。



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6月3日。ミルワーム(ゴミムシダマシ科の幼虫)好き。
もう自分でついばんで食べることができたし、
部屋に飛んでいるちっちゃい虫も捕獲するようになっていた。
目がものすごくいい。



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わたしがリビングからとなりのパソコン部屋に行くと、いつもついてきた。
天袋の引き戸のところにちょこんと座るのが日課。



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土と緑の感触が気持ちいいよう。
同じ頃に生まれたヒナはもう親鳥からの教育期間を終え本当の巣立ちを迎えている頃。



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6月10日。裸足が気持ちいい季節になったので、竹草履をはく。
フグは土ふまずのスキマに入ってくるようになった。



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伸び。



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6月12日。これがフグの最後の写真です。

それから4日後の16日の朝、ベランダに小さい虫がいたのでフグにあげようと戸を大きくあけた瞬間でした。
フグが何の迷いもなく、わたしの横をするりと抜け、外に真っすぐ飛んでいってしまったのです。
あっという間のことでした。
フグはまっすぐ、ずっとずっと見えなくなるくらい思いっきり羽ばたいて、遠くまで飛んでいってしまいました。
すぐに探しに行ったけれど、フグの姿はどこにもありません。
どこかの木にとまっていないか、鳴き声はしないか、あちこち探しまわりました。
けれど、見つかりませんでした。

ひょっこり戻ってくるのではと何日も探し続けましたが、結局フグは戻ってきませんでした。
毎日スズメのことばかり考え暮らす日々が続き
その強すぎる感情が呼んでしまったのか、
わたしが運転する車のフロントガラスにスズメが激突してしまうという悲しい事故がおきてしまいました。
泣きながらスズメの死体を持ち帰り、家の近くの空き地に埋めました。
フグよりも大人で、毛並みがとてもきれいなスズメでした。
この事故の数日前にもスズメのヒナの死体を見つけ埋めたばかりでした。

もうこんなことしてたらダメだ。
そう思いました。

いつかは帰してあげようと決めてはいたけど、なかなかできなかった。
フグは本来あるべき世界に帰っていっただけなんだから、
今ごろ仲間を見つけて公園や畑や緑の中で思いっきり自由に飛びまわっているはず、
餌も自分で捕れるようになっていたし、きっと元気にやってる、そう思うことにしました。

鳥がこんなにも愛くるしく、賢く、デリケートで、ユニークな生きものだとはまったく知らなかったし、
こんなにも愛情に満ち溢れた気持ちになった自分にも驚きました。
好奇心あふれる仕草や表情にいつも笑わされ
生きようとする自然の本能に触れるたびに、心打たれ、豊かな気持ちになりました。
外を歩いていてもいろんな野鳥が目にはいってくるようになり
世界が広がるってこういうことなんだと思いました。
たった1ヶ月半の短い間だったけど、フグとの生活はほんとうに幸せなものでした。
スズメの姿を見るたびに今でもフグのことを思い出し、掌におさまっていた温もりもいっしょに蘇ってきますが
今はもう穏やかな気持ちでスズメを眺ることができます。





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